王道でもないし、人生を変えるほどじゃないけれど個人的に好きなアルバムシリーズvol. 4『リレイヤー(Relayer)』
「The・賛否両論」
第4回目は、プログレを代表するバンド「Yes」から7作目の『リレイヤー(Relayer)』です。
前作「海洋地形学の物語(Tales from Topographic Oceans)」を発表後、方向性の違いからキーボーディストのリック・ウェイクマンが脱退し、後任に「レフュジー」のパトリック・モラーツが加入します。
今作はインプロビゼーションの要素や変拍子の多用など、従来のイエスの様式美的な作品とは違い異彩を放っているため、長らくファンの評価が別れたアルバムです。
私も初めて聴いたときは、それまでのきっちりした構成の作風を期待していたため、やや期待外れの印象を受けました。
しかし、何度も聴いていく内に少しずつ耳が追いついていくようになり、今では好きなアルバムのひとつになっています。
メンバーは、ジョン・アンダーソン(vocal)、スティーヴ・ハウ(guitar)、クリス・スクワイア(bass)、パトリック・モラーツ(keybord)、アラン・ホワイト(drums)の5人編成です。
曲目は以下の通り長編1曲と中編2曲の全3曲構成となっていて、本作は「トルストイ」の『戦争と平和』がモチーフになっています。
1.『錯乱の扉(The Gates of Delirium)』
2.『サウンド・チェイサー(Sound Chaser)』
3.『トゥ・ビー・オーヴァー(To Be Over)』
冒頭1曲目から複雑な構成の大曲『錯乱の扉』で幕を開けます。
まるで荘厳な城門が脳裏に浮かび上がってきそうなイントロから始まり、その後モラーツのシンセサイザーとハウのギターによる激しいソロの攻防が展開される様は、まさに今作のテーマでもある「戦争」を表現しているかのようです。
そして激しい攻防のあとは、シングルカットもされた『スーン(Soon)』による、まるで桃源郷にたどりついたような境地の曲調が展開されます。
1曲目の大作のあとは、2曲目の『サウンド・チェイサー(Sound Chaser)』です。
この曲は私が今作で最も取り上げたかった曲でもあります。
冒頭からテンションが高く、今までのYesとは一線を画すインプロビゼーション要素が展開されます。
特筆すべきは、荒々しくも唸るハウのギターとそれを効果的に彩るモラーツのキーボードで、本曲のインプロビゼーションの要素は、ジャズの素養があるモラーツによりもたらされたと言われています。
正直この曲をリック・ウェイクマンが演奏していたらここまで疾走感のある曲にはなっていなかったのではないでしょうか?(彼ならまた別のテイストの素晴らしいアレンジを見せてくれそうですが)
その後はまるで前曲で熱くなった身体をクールダウンするような、3曲目の『トゥ・ビー・オーヴァー(To Be Over)』につながります。
ジョン・アンダーソンの落ち着きがありつつも存在感のある歌声は聴いてて安心感があります。
途中モラーツのなんとも可愛らしいキーボードのソロから、ハウのギターにつながる流れはさすがです。
記事冒頭でも述べましたが、初めて本作を聴いたときは全く耳が追いついていけませんでした。
それまでの作風と比較するとどうしても全体的に荒々しく、まとまりに欠ける印象を受けてしまいます。
しかし、よく聴き込んでいくと音一つ一つの要素は面白いものがあり、今までのYesには見受けられない側面を知ることができるため、個人的にこれはこれでありだと思っています。
その側面とは、よりライブ感のある点といったところでしょうか。
今作1作でモラーツは脱退してしまいますが、少なからずYesに実験的な要素をもたらすことに貢献した点は彼の功績と評価するべきではないでしょうか。
賛否両論分かれる作品ですが、私は「賛」と申したいです。