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書評シリーズ第11回 『スマホ脳』

「もしかしてあなたの脳はスマホにハッキングされているかも!?」

第11回目は、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン著の「スマホ脳」です。

この本は、目まぐるしい速度で変化していく現代において、もはや当たり前のように使用しているスマートフォンやSNS等の危険性に警鐘を鳴らし、われわれのデジタル社会に対する向き合い方を提示してくれる作品です。

内容は全10章で構成されており、スマホ・SNS等のデメリットから、対抗策、向き合い方等といった形で展開されています。

人間の不安・ストレスについて

まず著者は、人間の脳が現代の情報過多の社会に適応できていないと主張しています。

われわれ人類は何万年以上にも渡って環境に適応できるように進化をしてきましたが、大部分を狩猟時代が占めており、これほどまでに環境が変化したのはほんの数千年の出来事です。数千年というとかなりの年月に思えますが、人類の歴史においては一瞬の出来事です。

当時の狩猟時代では、一生涯に出会う人の数はせいぜい200人程度であったのに対し、現代ではインターネットの普及により数百万人と出会うことができます。

また、当時は自分で食べ物を探しに行かなければ餓死する可能性がありましたが、現代では注文をすれば料理が届きます。

このような変化が、人類の歴史上においてわずかな時間で起こったため、現代の人類はその速度に適応できていないと言うのです。

特に人類は外的の脅威から身を守るために、不安や恐怖心といった負の感情を元に進化をしてきた背景があります。こういった感情があることにより危険を回避し、子孫を後世に残してきたことができたと言うのです。

そこで、続いて著者はこの負の感情の原因となる「ストレス」について述べていきます。

まず、人間が危機に瀕した例として、ライオンに遭遇した状況を挙げています。

ここでストレスを受けた人間は、「闘争か逃走か。」といった二択に迫られてしまいます。この状態に陥っていると、睡眠・食事・繁殖行為といった欲求は後回しにされてしまいます。

現代ではありがたいことに、こういった命に直接的に関わるストレスを受ける機会が減りましたが、代わりに試験勉強、仕事の納期といった予定に間に合わせるというストレスにさらされています。

適度なストレスはわれわれに精神を研ぎ澄ませる作用を生みますが、このような長期的なストレスにさらされると正常な思考ができなくなり、上記の「闘争か逃走か。」といった状態に陥ると述べています。

そこで、こういった状態を回避するために「不安」という感情が産み出されたのだと言います

「不安」があるから、強いストレスにさらされるのを回避するために事前に勉強したり、仕事の準備をしたりするようになるのだとのことです。

現代で問題になっている「うつ病」についても、命の危険性を回避するための心の免疫プログラムとの趣旨を述べています。

ストレスに強い人間が必ずしも生き延びて来たわけではなく、「不安」や「うつ」が人類の生存率を高めてきたというのです。

ここまでは、人間の進化の過程と脳の性質についてであり、ここからはスマホが普及したことによってわれわれの生活がどのように変化してきたのかを述べていきます。

スマホの依存性について

現代人は朝起きてまずスマホを取るようになり、1日でも最低数時間は画面を眺めるといった、スマホに依存をする生活を送っています。

この依存性を語る上で欠かせないのが、「ドーパミン」という脳内伝達物質です。

「ドーパミン」は報酬物質と呼ばれますが、実はそれだけではなく、われわれが何に集中するかを選択させる作用があり、人間の原動力とも言えます。

この「ドーパミン」があることにより、人類が遺伝子を残すよう突き動かされてきました。セックスによりドーパミンが増えるのは、まさに子孫繁栄の本能と言えます。

しかし、これと同様の作用がスマホでも起こっていると述べています。

人間は新しい知識や経験をするとドーパミンが増える特徴があります。周囲の知識を増やすことで生存確率を高めてきた歴史があるように。

つまり、スマホで新たな知識を得ていくほどドーパミンが増えていくのです。こういった性質から、本来知りたい情報のみならず、他のページをどんどんクリックしていくようになっていき、依存性が高められていきます。

また、ドーパミンが激しく放出されるのは「期待感」が高まる瞬間であると言い、スマホにはこの「期待感」を煽る性質が備わっているとのことです。

それは、SNS等での投稿に「いいね」が来るのや、LINEの返事を待っている瞬間などです。

特にSNSの開発者はそういった人間の脳システムを理解し、人間の報酬システムが最高潮に煽られる時に「いいね」が表示されるような仕組みを作っているとのことです。

こういった危険性から、シリコンバレーのIT企業トップの人たちは、自分の子供にスマホを持たせないことが多いそうです。

作る側の人達ほど、その依存性が高いことを理解しているためスマホ・SNS等を控えており、依存性が高いものを生み出したことに対する罪悪感にさいなまれているというのは、皮肉な印象を受けますね。

このようにいかにスマホが依存性が高いものであるかを述べた後に、スマホがわれわれにもたらす影響について見ていきます。

スマホがもたらす弊害

現代のデジタル社会において、メールの処理をしながら動画を見たりするなど、マルチタスクが当たり前になっていますが、人間の脳は本来マルチタスクが苦手なのだと言うのです。

まず一つは「集中力の低下」を挙げています。

われわれは本来一度にひとつのことしかできなく、複数の作業を同時に行っていると思っていても、実は作業を行き来しているに過ぎません。次の作業に移ったつもりでも、前の作業のことが頭に残っているため、集中力が下がってしまいます。

また、マルチタスクの弊害は集中力の低下のみならず、記憶力の低下を招くとのことです。

物事を記憶するには、深く集中する必要があり、スマホはこの集中を阻害する要因になりやすいとのことです。

スマホをサイレントモードにするだけではだめで、隣の部屋に置くなどし、集中できる環境にしないと長期記憶が定着しないと言うのです。

他にも、スマホは睡眠時間を削る原因として挙げており、スクリーンのブルーライトは「メラトニン」という睡眠を促すホルモンの分泌を阻害するのだと言う。

寝付きが悪い人は、眠りに入る2時間前からはスマホを見るのは控えたほうが良さそうです。

それでは、これらのデジタルデバイスの弊害に対して、どのような対抗策があるのか見ていきます。

最適な対抗策

それは、「運動すること」が一番最適な解決策であると著者は述べています。

運動して心拍数を上げることで、ストレスや不安に強くなり、また、集中力が向上するのだと言います。

少しの運動でも効果があり、週に2時間程度で十分で、それ以上だと効果が薄くなるとのことです。

スマホが知能低下の原因?

また、著者はスマホの登場によって、人類のIQが下がってきているとも述べています。

100年前と比べると数学的な思考訓練の機会が多くなったこともあり、人類のIQレベルは平均的に上昇してきましたが、90年代の終わり頃から北欧ではIQの上昇が頭打ちとなり、今では平均スコアが徐々に下がっていきている傾向にあり、世界の他の地域でも同様の事象が起こるだろうと言われています。

その原因として、20〜30年前と比べて読書が推奨されなくなってきたこと、運動する時間が減ったこと、他には情報過多により集中力が下がったことを挙げています。

インターネットの登場により、われわれは知りたい情報をすぐに検索することができます。それまでは本などで調べるなど、集中して作業を行う必要がありました。

集中力が阻害され自分で考える機会が減っていったことで、IQが下がっていったとのことです。

これからこの傾向は顕著になっていき、仕事は集中力を要するもの以外はAIやロボットに置き換わっていくだろうと著者は述べています。

デジタル時代へのアドバイス

最後に著者は、デジタル時代への向き合い方のアドバイスを述べていますので、印象に残ったものを挙げていきます。

・自分のスマホ利用時間を知ること

・目覚まし時計を買うこと等により、スマホでなくていい機能を分ける

・通知をオフにする

・集中するときは、スマホを隣の部屋に置いておく

・チャットやメールをする時間を決める

・睡眠に入る少なくとも1時間前はスマホの電源をオフにする。

・週に最低2時間は運動するようにする。

総評

現代社会に生きるわれわれは、もはやスマホがない生活に戻るのが難しくなってきています。スマホはとても便利ですが、それと同時に依存性や集中力低下、睡眠障害といった弊害を持つ、正に諸刃の剣であり、上手に付き合っていくことが大事であると本書を通じて学びました。

これからも社会はますます進化のスピードが上がると思われ、その過程で便利なものもどんどん生まれていくことでしょう。

しかし、便利なものによる弊害も常に考え、われわれの祖先から受け継いだ性質をないがしろにせずに、まだ見ぬ未来へ向き合っていきたいと思います。

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