人生を変えた名盤シリーズvol.6 『Black Rose』
「秋の黒い薔薇」
第6回目は、アイルランド出身のバンド「シン・リジィ」より、9作目の『Black Rose』です。
メンバーは、フィル・ライノット(vocal & bass)、ゲイリー・ムーア(guitar)、スコット・ゴーハム(guitar)、ブライアン・ダウニー(drums)です。
シン・リジィは、彼らの代表作である『脱獄(Jailbreak)』で見られたような軽快なハードロックのイメージが強いバンドですが、今作はゲイリー・ムーアが参加したことで一層ギター色が強化され、アイルランドの伝統音楽であるケルト・ミュージックと融合し、彼らの集大成と言える作品となっています。
まず冒頭の『Do Anything You Want To』から、彼ららしいスタンダードなハードロックで始まり、その後も失速することなくアルバムは展開していきます。
途中に『S & M』のようなファンク調の曲、『Sarah』のようなボサノバ調のさわやかな曲があるように、彼らの音楽性の幅広さがバンドの魅力の一つになっています。
その後再びハードな展開に戻り、アルバムはクライマックスを迎えます。
そして、特筆すべきはなんと言っても、ラストのアルバムタイトル曲である『Black Rose』です。(原題:Róisín Dubh (Black Rose): A Rock Legend)
この曲は7分もある大作で、記事の初めで話したゲイリー・ムーアのギターソロ、ケルト・ミュージックがふんだんに盛り込まれています。
出だしのフィル・ライノットの魂の込もったボーカルを、バックが徐々に盛り立てていきます。
その後はゲイリー・ムーアの独壇場。彼の超絶速弾きと哀愁漂う二面性を持ったギターが踊るように奏でられ、ケルト・ミュージック風にアレンジされたギターソロは、ハードロック史に残る名演です。
そして再びフィル・ライノットのボーカルが入り、作品はグランドフィナーレを迎えます。
この作品を聴いたあとは、いつもなんとも言えない余韻が残ります。
それは、シン・リジィというバンドの故郷であるアイルランドへの郷愁。もしくは、彼らの今までの人生を振り返り、原点に立ち返ったという思いから来るものかもしれません。
このアルバムは私が学生時代、銀杏が色づき始めた秋の帰り道によく聴いてました。この時期は夜がだんだんと長くなっていき、一人で考えることが多くなります。
ふとこれまでの人生を振り返り、不安だけど希望のある未来へ思いを馳せていた、あの頃を思い出させてくれる感慨深いアルバムです。