書評シリーズ第9回 『#真相をお話しします』
「令和の時代の新ミステリー」
第9回目は、結城 真一郎氏著の「#真相をお話しします」です。
この本は、マッチングアプリ、リモート飲み会、YouTubeなどといった、コロナ禍の昨今において主流となっているテーマを題材とした、令和の時代の日常に潜む違和感を描いたミステリー短編集です。
収録作は「惨者面談」「ヤリモク」「パンドラ」「三角奸計」「#拡散希望」です。
どの作品にも共通して言えるのが、令和の時代のありふれた日常の一幕を下地にしており、読み進めていくにつれて段々と違和感を覚え始めていくという点です。
その違和感の正体が掴めないまま読み進めていくと、途中で物語が急変し、その正体が徐々に明るみになっていく仕掛けが施されています。
こういうことだろうと先の展開を予想して読み進めていきますが、その予想はことごとく裏切られ、常に想像の斜め上を行く結末が待っています。
まるで著者にもて遊ばされているようですが、切れ味バツグンの文体は爽快感があるため、不思議と不快に思いません。
読み返してみるとヒントになる部分が上手く散りばめられてるため、繰り返し読んでみる楽しさもあります。
ちなみに特に印象に残った作品は、最後に収録されている「#拡散希望」です。
こちらは、第74回日本推理作家協会賞<短編部門>受賞作でもあり、まったく予想がつかない展開が繰り広げられます。
ネタバレになってしまうため詳細は語りませんが、時代が生んだYouTuberを題材とした、再生回数を稼ぐためなら他者の尊厳を踏みにじってもいいのかという、まさに考えさせられる内容となっています。
コロナ禍でわれわれの生活はそれ以前とは一変してしまいました。
しかし、こちらの結城 真一郎氏のような新たな作家が出てきたように、これからも新しい時代を象徴する人物が現れてくることを考えると、楽しみな世界が待っているのかもしれませんね。