人生を変えた名盤シリーズVol.19 『噂(Rumors)』
「辛いときこそ没頭せよ」
第19回目は「フリートウッド・マック」より、1977年に発表された11枚目の『噂(Rumors)』です。
「フリートウッド・マック」は、1967年イギリスのロンドンで結成された、元々は当時一世を風靡していたブルース・ロックをルーツとしたバンドでした。
元「ジョン・メイオール&ザ・ブルース・ブレイカーズ」のメンバーであったギターのピーター・グリーンとドラムのミック・フリードウッドを中心としたバンドでしたが、1970年にピーター・グリーンが突如脱退します。(初期フリードウッド・マックも個人的に好きなのでいつか紹介できたらと思います。)
その後に新たなフロントマンとして、リンジー・バッキンガムとスティービー・ニックの男女デュオを迎えました。
今作はブルース・ロックから一転、大胆にポップ・ロック路線に方向転換し、結果的に大成功を収めたアルバムです。
メンバーは、スティーヴィー・ニックス(vocal)、リンジー・バッキンガム(guitar、vocal)、ジョン・マクヴィー(bass)、クリスティン・マクヴィー(keybord、vocal)、ミック・フリードウッド(drums)の5人体制です。
曲目は以下の通り、全11曲です。
1.『セカンド・ハンド・ニュース(Second Hand News)』
2.『ドリームス(Dreams)』
3.『もう帰らない(Never Going Back Again)』
4.『ドント・ストップ(Don’t Stop)』
5.『オウン・ウェイ(Go Your Own Way)』
6.『ソングバード(Songbird)』
7.『ザ・チェイン(The Chain)』
8.『ユー・メイク・ラヴィング・ファン(You Make Loving Fun)』
9.『アイ・ドント・ウォント・トゥ・ノウ(I Don’t Want to Know)』
10.『オー・ダディ(Oh Daddy)』
11.『ゴールド・ダスト・ウーマン(Gold Dust Woman)』
冒頭1曲目の『セカンド・ハンド・ニュース(Second Hand News)』を初めて聴いたときの衝撃が忘れられません。
非常に耳障りが良く軽快なサウンドで、男女のボーカルの掛け合いが絶妙です。
しかし、後半のギターソロはそれまでブルース・ロックの礎をしっかりと築いてきた、バンドの持ち味が垣間見えます。
続く2曲目の『ドリームス(Dreams)』は、ヴォーカルのスティーヴィー・ニックスが書き上げたシングル・カット曲で、アメリカで1位を取り、彼らの最大のヒット曲となりました。
当時バンド内は離婚問題などでとてもセンシティブな状態で、その状況に見かねた彼女は少しでもバンドの状態を良くしようとこの曲を制作しました。
歌詞の内容も男女の孤独について歌っていて、現実から目を逸らさずにあるがままを受け入れることの大切さを説いているように私は感じました。
続いて4曲目の『ドント・ストップ(Don’t Stop)』もシングル・カットされた曲で、”過去を振り返らず、明日に向けて前向きになろう”といった旨の歌詞が歌い上げられています。
よくあるポップスの曲に思えますが、辛い状況の最中にあったメンバーだからこそ、ただのポップスに留まらず、聴き手に伝わってくるものがあります。
そして5曲目の『オウン・ウェイ(Go Your Own Way)』です。
ボーカルのリンジー・バッキンガムが”自身の道を進め”と歌い上げる様は、胸に迫ってくるものがあります。
そして、それを彩るバックコーラスも最高です。
本曲は今作の私の一番のお気に入りの曲で、3曲目の『ドリームス』で現実を受容し、4曲目の『ドント・ストップ(Don’t Stop)』で過去を引きずるのを止め、この『オウン・ウェイ(Go Your Own Way)』にて、”結局自分の道を進むしかないのだから迷わず突き進め”、と聴いたものを後押しするような流れに思えました。
他にもキーボードのクリスティン・マクヴィーによる美しいバラード曲『ソングバード(Songbird)』、風変わりな『ザ・チェイン(The Chain)』、個人的に好きな『ユー・メイク・ラヴィング・ファン(You Make Loving Fun)』など、バラエティに富んだラインアップになっていて、一枚通して飽きることなくあっという間に聴き終わります。
上記でも述べましたが、このアルバムの制作時、メンバーは男女間の複雑な問題を抱えていました。
各メンバーはアルバム作りに没頭することで、その状況を打破しようとしており、その心情が歌詞にも現れています。
辛いときは人間ネガティブになりがちですが、全体的に暗くならずに前向きな曲が多いのは、彼らがどんな状況も乗り越えられると自分たちを信じ、またメンバーとしてお互いを信じあっていたからではないでしょうか。
その結果、あらゆる聴き手の心に突き刺さる、見事な名盤が生まれたのだと思います。