人生を変えた名盤シリーズ vol.2 『危機(Close to the edge)』
「名作は時代を超えて語り継がれる。」
第2回目は、英国のプログレッシブロックバンド「イエス」より、1972年に発表された5作目のアルバムで、プログレの金字塔『危機』(原題:Close to the edge)です。
前回紹介した初期クイーンからプログレというジャンルを知り、その世界に踏み込む入口となった思い出深い一枚です。
プログレッシブロック、通称「プログレ」と言われるジャンルは、当時全盛期であったサイケデリックロック、ハードロックなどから派生し、既存の型にはまらず、より音楽性・芸術性を追求した分野です。
主な特徴として、変拍子の多用・長尺の曲・アルバム自体が1つのコンセプトになっている、などが挙げられます。
このアルバム『危機』もコンセプトアルバムに分類されます。
メンバーはジョン・アンダーソン(vocal)、スティーヴ・ハウ(guitar)、クリス・スクワイア(bass)、リック・ウェイクマン(keybord)、ビル・ブルーフォード(drums)と、イエス黄金期のラインナップとなっています。
収録曲は、タイトル曲である『危機』、牧歌的な『同志』(原題:『You And I』)、エッジの効いたリフが印象的な『シベリアン・カートゥル』の、いずれも長尺の大作三曲で構成されています。
イエスはそれまでも『Your Is No Disgrace』や『燃える朝焼け(原題:Heart of the Sunrise)』など、長尺の曲をアルバムに収録していましたが、今作のように収録曲すべてが長尺なのは初の試みです。
ちなみに近年では、イエスの楽曲『Roundabout』がアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』エンディングテーマに起用されて話題になりました。
さて、本作のレビューですが、まず1曲目の『危機』を初めて聴いた時の衝撃が未だに忘れられません。
この曲は『着実な変革』・『全体保持』・『盛衰』・『人の四季』の4部構成になっており、第1部の『着実な変革』では、スティーヴ・ハウの激しいギターによる、まるで地球に宇宙人が侵略してきたかのようなイントロで始まります。
その後第2部『全体保持』では、滅びゆく地球から宇宙船で脱出し、宇宙空間をあてもなく彷徨う光景を奏でています。ビル・ブルーフォードの緊張感のあるドラムと、クリス・スクワイアの重厚なベースが遺憾無く発揮され、楽曲に臨場感を生み出してます。
第3部『盛衰』でパイプオルガンが登場し、まるで宇宙船に乗り込んだ主人公が仲間や家族を置き去りにして脱出してしまった”悔恨”に苦しむかのような情景が表現されています。このあたりは、クラシック音楽に素養があるキーボーディスト、リック・ウェイクマンの真骨頂です。
そして第4部『人の四季』にて、苦悩する間も無くまた新たな未知の世界へ突き進んでいくかのような、激しいテンポの曲で物語は幕を閉じます。
未だにこの曲を目を閉じながら聴くと、中学生の時に夜な夜なMDウォークマンで繰り返し聴いていた日々を思い出します。
当時周りの人々がJ-POPを聴いていたのに対し、自分は少し斜に構えて洋楽を聞いていた部分があった感は否めません。(洋楽の方が邦楽より優れているという意味ではなく、あくまで個人の趣向の話です。)
しかし、今改めて聴くと、いかにこのアルバムが優れていて、未だに衝撃と影響を与え続けているかが分かります。
「名作というものは時代を超える」ということを、改めて認識させてくれる一枚です。
(『同志』と『シベリアン・カートゥル』も、イエスのライブで演奏される名曲ですが、タイトル曲「危機」の解説が長くなってしまったためここでは割愛します。ぜひアルバムにて傾聴していただけたらと思います。)