人生を変えた名盤シリーズvol.9 『ヨシュア・トゥリー(The Joshua Tree)』
「1980年代を代表するアメリカ南西部の魂の樹」
第9回目は、アイルランドを代表するバンド「U2」より、5作目の『ヨシュア・トゥリー(The Joshua Tree)』です。
「U2」は1980年デビューのロックバンドで、「グラミー賞」を22回も受賞し(22回はアーティスト最多受賞)、2005年には「ロックの殿堂」入りも果たしています。
アイルランド紛争、反核運動、人権問題など、社会問題について取り上げた数々の楽曲を発表している、社会派バンドといった特徴があります。
メンバー構成はデビュー当初から変わらず、ボノ(vocal)、ジ・エッジ(guitar) 、アダム・クレイトン(bass)、ラリー・マレン・ジュニア(drums)の4人体制です。
「ヨシュア・トゥリー」は、アメリカ南西部の砂漠地帯に生える「ユッカの樹」のことで、作品にもブルースやカントリー、ゴスペルなどのアメリカ音楽への傾倒が見受けられます。
それでは早速アルバムについてレビューしていきたいと思います。
冒頭1曲目の『ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム(約束の地)』にて、ジ・エッジの繊細かつ奥深いカッティングギター、ボノの力強いボーカルでアルバムは幕を開けます。
まさに、これから新しい世界が広がっていくかのような清々しさを感じさせられる1曲です。ちなみにこの曲は、日本の某報道番組のオープニングテーマにも起用されました。
また、「ビートルズ」の伝説の「ルーフトップコンサート」をオマージュしたようなPVも必見です。
アルバム全体を通して名曲揃いで、かつバランスが優れているため飛ばすことなく最後まで聴き通すことができます。
ここではいくつかの個人的に気になった曲を取り上げたいと思います。
まずは、3曲目の『ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー(With or Without You)』について。
静かなアンサンブルからボノの囁くような歌声で始まり、段々と曲調が激しくなっていきます。ジ・エッジの油の乗ったカッティングも光ります。
歌詞も秀逸で、サビの「あなたがいてもいなくても、生きていくことができない」というメッセージは聴き手の胸を打つものがあります。
ちなみにこの曲はUSチャートで初めての1位に輝いた、同バンドを代表する曲の一つで、『One』に次いで最も多くのアーティストにカバーされています。
続いて4曲目の『ブレット・ブルー・スカイ(Bullet the Blue Sky)』
それまでの、柔らかで前向きなサウンドと一転、重厚で緊張感のある曲調に変わります。この曲は当時のアメリカ政府の対ニカラグア政策を告発する内容となっており、メンバーの強い憤りが伝わってきます。
そして個人的に同アルバムの1番のお気に入りである、9曲目の『ワン・トゥリー・ヒル(One Tree Hill)』です。
この曲は全体的に聴き心地の良いサウンドで、シングルカットしてもおかしくないと個人的に思っており、特にサビの部分のコーラスとボノのアドリブのようなボーカルが印象的です。
このアルバムないしはU2というバンドの持ち味としては、やはりジ・エッジのディレイを効かせた繊細なカッティングと、ボノの魂のこもった聴き手に訴えかけるようなボーカルだと思います。
もちろん、アダムのベースとラリーのドラムも楽曲を盛り立てるのにとてもいい仕事をしています。しかし、この2人がリズム隊に徹しているため、ボノとジ・エッジが存分に個性を発揮できる側面が強いと言えます。
ちなみに、ジ・エッジはお気に入りのギタリストの一人で、彼の唯一無二のサウンドに憧れ、カッティングを練習したりしました。
見た目は人の良さそうなおじさん(?)といった印象ですが、ギターを持つと頑固職人のような気質を発揮し、その手元からは見た目と裏腹の、非常に繊細で柔らかなサウンドが奏でられます。
昨今、ロックレジェンド達が活動休止したり亡くなったりしている中、未だ精力的に活動を続けているU2には本当に敬服します。
2019年には本アルバムの楽曲を曲目順に演奏する「ヨシュア・トゥリー・ツアー2019」を行っており、日本にも13年ぶりに来日しました。
まだまだ彼らは留まることなく第一線で走り続けており、次に日本にやってきた時は、ぜひその衰えの知らない姿を目に焼き付けに行ってきたいと思います。
その日まで私は「魂の樹」を聴きながら待ち続けます。