王道だけどちゃんと聴いてなかったシリーズvol.14 『ホワッツ・ゴーイング・オン(What’s going on)』
「完璧さだけじゃモノ足りない」
第14回目は、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)より『ホワッツ・ゴーイング・オン(What’s going on)』です。
マーヴィン・ゲイは1939年にアメリカ合衆国はワシントンD.C.にて誕生し、幼少の頃から地元の教会の聖歌隊などで音楽に触れ、歌のみならずピアノやドラムと行った楽器の演奏技術も習得しながら育ちました。
学校を卒業した後に入隊した空軍を除隊後、いくつかのコーラスグループを渡り歩きながら力をつけ、モータウンレコードの社長に見出されたことによりデビューすることになります。
『ホワッツ・ゴーイング・オン(What’s going on)』は1971年に発表され、ポップ・アルバム・チャートで6位、R&Bアルバムチャートでは9週連続1位を獲得しました。
また『ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500』の1位に選出されており、私はこちらの記事を見たのがきっかけでこのアルバムと出会いました。
普段ソウルやR&Bはあまり聴かないジャンルですが、500位中の1位を獲得したアルバムがどれほどのものかと好奇心から視聴し、その期待を遥かに上回る圧倒的な完成度を思い知らされたため、この度記事にしました。
曲目は以下の通り、全9曲です。
1.『ホワッツ・ゴーイング・オン(What’s going on)』
2.『ホワッツ・ハプニング・ブラザー(What’s Happening Brother)』
3.『フライン・ハイ(Flyin’ High (In the Friendly Sky))』
4.『セイヴ・ザ・チルドレン(Save the Children)』
5.『ゴッド・イズ・ラヴ(God is Love)』
6.『マーシー・マーシー・ミー(Mercy Mercy Me (The Ecology))』
7.『ライト・オン(Right on)』
8.『ホーリー・ホーリー(Wholy Holy)』
9.『イナー・シティ・ブルース(Inner City Blues (Make Me Wanna Holler))』
冒頭1曲目のアルバムタイトル曲でもある『ホワッツ・ゴーイング・オン(What’s going on)』は、当時勃発していたベトナム戦争から帰還したマーヴィン・ゲイの弟から着想を得た曲で、シングル・カットもされ、全米2位およびR&Bチャートでは1位を記録しました。
肩の力が抜けたサックスの演奏で始まり、”マ〜ザ、マ〜ザ〜♪”と軽やかに歌い上げるマーヴィン・ゲイの声はすぐに耳に浸透し、まるで以前から何度も聴いているような居心地の良さを感じられました。
非常に簡単に歌っているように思えますが、強弱の付け方、コーラスワークなど、随所にトップレベルの技術が見受けられます。
続いて、こちらは6曲目の『マーシー・マーシー・ミー(Mercy Mercy Me (The Ecology))』です。
シングル・カットもされ、2週連続全米4位、R&Bチャートでは2週連続1位を獲得しました。
副題に「The Ecology」と冠しているように、本曲は環境問題について歌った曲で、1曲目の『ホワッツ・ゴーイング・オン』と同様、本アルバムには社会問題を取り上げた曲が多く含まれており、社会問題についてのコンセプト・アルバムと言える仕上がりになっています。
そして、ラストの『イナー・シティ・ブルース(Inner City Blues (Make Me Wanna Holler))』ですが、こちらは都会生活の不毛さについて歌っており、シングル・カットもされ、全米9位、R&Bチャート1位を獲得しています。
”大声で叫びたくなる”と歌詞にある通り、がんじがらめで窮屈さを感じる我々が生きる現代生活にも通じるものがあります。
アルバム全体を通して社会問題を取り扱っていますが、サウンドは重苦しくはなく、どちらかと言うと耳障りの良い軽快な曲調になっていることで説教臭さが緩和され、割とすんなり受け入れることができるような仕上がりになっています。
また、今作はマーヴィン・ゲイがセルフ・プロデュースを努めたことで、彼の能力が遺憾なく発揮されています。
独特のリズム感、メリハリのある歌い方など、生まれ持った物もありますが、それらに頼るだけではなく、非常に緻密に計算されつくされたサウンドであるということが聴き手に伝わってくる、圧巻のクオリティです。
ちなみに本作で成功を収めたマーヴィン・ゲイは、その後も精力的に活動をしますが、離婚問題や薬物依存などの問題を抱え、一時活動から離れます。
その後周りからの支援も受け、1982年に『ミッドナイト・ラヴ』を発表し、再びヒットを収めます。
復活の兆しが見え始めこれからという時に、1984年4月、父親と口論になった際に凶弾に倒れました。
ジョン・レノン、フレディー・マーキュリー、マイケル・ジャクソン等、偉大な作品を生み出すアーティストというのはどうしてこうも早くに他界してしまうのでしょうか?
彼らが生きていたらどんな素晴らしい作品が生まれていたのかと残念でならないですが、ひとつ言えることは、半世紀たった現代でさえ、彼らの作品は衰えるどころか一層輝きを増し、後続のアーティストに多大な影響を与え続けているということです。